院長コラムvol.24 ●義歯考 続

2024.03.08

 続いて義歯について考えてみたい。高齢化社会の影響もあり、義歯を装着する患者さんの年齢も高くなっている。その結果、歯のない人を無歯顎者と呼ぶのだが、その人たちの歯槽頂も以前は顎堤の吸収が少なく、高い場合が多かったのだが、現在は歯槽頂も低く、中には高さがほとんど認められないものもあるほどである。歯牙が何本かあれば、それを鈎(フック)の掛かりやすい形の被せ物にして義歯が作れるのである。しかし無歯顎者の場合は保持する場所が口腔粘膜である。そこで重要になるのが「印象」である。「印象」とは口腔内を採得することであるが、採れすぎても採れなさすぎてもいけないのである。まず上顎の場合、印象がショートのときは、できた義歯が脱落、転倒して安定のないものになる。では採れすぎた場合とはどういうことか、頬を引っ張ると弾力のあることが分かる。しかし歯頚部(歯ぐき)の近くまで来ると、引っ張っても動かない部分がある。これが歯肉頬移行部と言われるところでこの部分までで、印象をそれ以上伸ばしてはいけないのである。伸ばせば頬に力が加わったときに義歯を押し返し外れてしまう。そのため一次印象のときも印象時に唇を引っ張って採れすぎに注意する。そしてその模型を使って個人トレーを作るのである。歯肉頬移行部の採得のためコンパウンドという熱で軟化するものを使いそれで辺縁を印記するのである。うまく印記すれば、その個人トレーは取っ手を持って外そうとしても、外れないものである。まず吸着のある義歯の第一歩を踏み出すことになる。

いがらしデンタルクリニック | 新橋 歯科
院長 五十嵐淳雄