院長コラム vol.22 ●インプラントの現状2

2023.09.30

 前回に引き続き、インプラントを取り巻く状況について述べたい。材質の次に問題となるのは料金の問題である。近頃はネットで調べると格安なものもあり驚かされるが、オプションやメンテナンスを割高にして差額を縮めようとするものや、インプラント自体が何処の商品か、またその上部構造たる被せ物の出来映えを疑いたくなるものも多い。一般的な金額としては一装置全体で35万~40万円位であるようだ。但し面白いのはこのチャージの設定基準である。直接に掛かる費用(インプラント自体と被せ物の材料代、技工代)×5なのだそうだ。そして手術に際しての機械、器具の費用また消毒等の準備、管理費迄入れるとそれほど採算性が高い訳では無いと言う歯科医も少なくない。しかしこの考えはいかにも商店主の考えになってはいないだろうか。まず規模の効果が見過ごされている。恐らくは意識的にであろうが。一年に数ケースしか無ければ何百万か掛けてインプラントの為の手術態勢を調えても減価償却はなかなか進まず利益率も低いままであろう。しかし数十ケース以上ある場合は、この逆に経費は限りなく直接費用に近づく。通常であれば初期費用が償却されれば、競争力を増す為にコストダウンを図るはずである。どうもその考えは無いらしい。

次にインプラント治療を行う際の手術環境を考えると、準滅菌態勢を維持する為にも手術室の完備、浮遊細菌除去用のエアークリーナー、手術時のモニタリング装置等の設置が必要とされている。しかし一般開業医で何処まで揃えられるかは難しいところでもある。そのうえ歯列の向きと顎骨の厚さと形態を考えながら三次元的にインプラントを植立させるには二次元のレントゲンでは不足であり、口腔内用CTスキャンの使用が不可欠と考えられるが、およそ三千万円程の機器を導入する所は少ない。回避策として医院向けにメディカルスキャンを請け負う撮影所があり三万円弱のコストが掛かるが、安全性とコストの狭間で大半が利用している訳ではないのが実情である。

最後にメンテナンスの問題がある。インプラント治療を受けた後は定期的なリコールによって経過観察は不可欠である。また前提として患者サイドの、ある一定以上の口腔内の清掃は義務付けられよう。それはインプラント体と顎骨に挟まれた歯肉は病態であるからだ。インプラント周囲炎という考えがあり、天然の歯の様に付着歯肉で守られている訳ではなく、絶えず炎症が存在する箇所でもある。従って清掃が不十分な場合、埋め込んだインプラント体の部分の顎骨が吸収を起こし始め、最悪の場合は動揺、抜け落ちることもある。そのような兆候が出て来た場合は上部構造を外し、再び外科的処置を施さなければならない。また治療を受ける対象年齢の中心が五十代であり、それがより高齢化の傾向にある中で、終末治療としてインプラントのメンテナンスを自分では行えない患者さんに対して、どのような提供が出来るかという議論はまだなされてはおらず、これからの課題にもなっている。



いがらしデンタルクリニック | 新橋 歯科
院長 五十嵐淳雄