院長コラム vol.21 ●インプラントの現状1

2023.09.15

 インプラント治療の隆盛を物語る指標として日本口腔インプラント学会の会員が1万人を越えたことが話題になっている。臨床に携わる歯科医が約9万5000人なので、割合を考えるとコンセンサスを獲得して来ているのが伺われる。また総ての歯学部では無いが講座を設けて学部生に教育、実習のカリキュラムを実施している所もある。

それではなぜインプラント治療が急速に普及してきたのだろうか。まず治療技術の進歩が挙げられる。それに伴うメーカー側の積極的な販売姿勢があり、患者側からはインプラント治療の理解が拡がり、その結果選択肢として認知され、口腔内により高度な品質を求める需要が喚起されたことが挙げられる。歯科医側からは歯科医数の増加にリンクした患者数の減少と保険治療の抑制(国民医療費の7.6%、平成18年度)により保険治療に対する閉塞感が生まれ、その反面高額なインプラント治療への意欲が増加したと考えられる。

統計上でもインプラント治療の適応年齢が50代で、最近はそれが高齢化の傾向にあるなか、何を留意すべきであろうか。

まず上部構造(インプラント体の上に乗るいわゆる歯の部分)の材料を考えたい。インプラント体はいわゆるネジの形をしており、顎骨に回転しながら埋め込むものである。歯は顎骨に植わってはいるが歯根膜が緩衝帯の役目を果たし、歯を保護する。直接顎骨に埋め込まれたインプラントにはこの緩衝帯が無い。従って咀嚼時の衝撃を直接受けるため咬合面(噛み合わせの面)までセラミックの被せ物はチッピング(欠ける)することが多い。それを恐れる術者は、カラット数の高いゴールドクラウン(20K)にすることが多い。それは軟らかいため欠けずに磨耗してくれ、また対合歯の磨耗も少ないからである。ただし審美的には山吹色なので、患者側からは余り好まれない。折衷案としては咬合面はメタルにして頬側(表側)を白くする(硬質プラスチック等)方法があるが、下顎の場合金属が目立つので好まない患者さんも多い。全体的に白くしたい場合、ハイブリット系の材質のものがある。フィラーが入っていて弾性もあり、適度に磨耗もする。従って対合歯に対してセラミックより当たりが軟

らかい。ただしセラミックより安価なのでためらう歯科医も多いが、需要は増えてきている。審美的要素を考えるならばセラミックに優るものは無いであろう。形態はポーセレンを盛ることで、どのような形も取り得るし 色調はポーセレンに色付けをするのでグラデーションも意のままである。

しかし、インプラント体の上部構造であるため、一様な当たりが要求され、そのため形も制限を受ける。また経年変化により他の歯牙と同じように磨耗しないことが多い。それはセラミックが硬いため、むしろチッピングすると考えられているが、それでも審美優先の患者さんはセラミックを希望するのである。ハイブリットの被せ物は色調に関しては悪くはないが、セラミックと較べると今一歩である。ただし技工士さんの腕前を加味するなら、変わらなくなる。欠けた場合もセラミックより、修復が容易である。材質が進歩しているので、使用頻度は増えるはずである。最後にジルコニアがある。とても硬く前歯部には適応症例ではあるがやはり薄い部分がある場合は破折するらしい。色調は今ひとつである。次回もこの話を続けたいと思います。

いがらしデンタルクリニック | 新橋 歯科
院長 五十嵐淳雄