院長コラム vol.15 ●口臭雑感2

2023.06.01

 歯磨きの前に、歯ブラシの選択を考えたい。よく電動歯ブラシは駄目ですかと聞かれることがある。大抵磨きが悪く、歯槽膿漏の程度も進んでいる人の場合が多い。振動数が多く、歯磨き粉ですぐに口の中が泡だらけになりその爽快感から、磨いた気になりやすいのである。毛先を歯面にうまく当てるテクニックを習得すればいいのだが、それにはまず手動の歯ブラシからということになると思う。毛先の選択はナイロンが一番良い。乾燥しやすく、雑菌が繁殖しにくいからである。ヘッドの大きさは出来るだけ小さい方が良い。一番奥の歯まで磨けるからである。奥歯に対しては一歯用の歯ブラシもあるから使い分けると、より効果が増すと思われる。硬さは、好み次第ではあるが、力が強く入りやすい人には歯や歯肉が削れないように普通の硬さを勧めることが多い。またその際には歯磨き粉の量を出来るだけ少なくするか、研磨剤の入っていないジェル状のものを勧めている。

 やっと本題の歯磨きの話になるが、磨き方にも用途に応じて何通りかがある。簡単な方から述べると、

(1)ローリング法 いわゆる縦磨きで歯間や、歯と歯肉の隙間に溜まったプラーク(歯垢)を除去する方法。歯茎から歯の先に向かって掻き出すように歯ブラシを回転させます。昔はこの方法で教わった人も多いのですが、これだけでは歯槽膿漏の予防の効果は期待出来ません。大きな汚れを取るための初段階の磨き方と考えてください。また歯間部の汚れが取りづらい場合歯ブラシを縦にして歯間に沿って動かして汚れを除去するよう指導することもあります。

(2)スクラッビング法 歯ブラシを歯面に直角に当てて、左右に細かく振動させます。なんとなく磨いているとこの方法になると思いますが、歯の表面のプラーク除去のための磨き方です。ただし下顎の前歯部の裏側(舌側)はこの方法では磨きづらいことがあります。その場合は歯ブラシを縦にして磨くことを勧めています。

<br>(3)フォーンズ法 歯ブラシを歯面に直角に当て円を描くように磨きます。歯面をまんべんなく磨けます。部位によってスクラッビング法と使い分けると良いと思います。

(4)バス法 この方法が歯槽膿漏の予防のために最も有効な磨き方ではありますが、とにかく難しいです。概略を述べると上顎の場合、歯ブラシを上向きにして、歯に対して45度の角度で歯と歯肉の境目(歯肉溝)に毛先をいれ、その毛先が流れないように、数ミリ幅で振動させます。分りやすく云うと、磨いているときの音がシャカシャカしては駄目です。溝に毛先がとどまっていれば、音はしないからです。下顎の場合、歯ブラシを下向きにして、歯に対して45度の角度を取り、後は同じです。何が難しいかというと、歯肉溝の並んでいる方向と歯ブラシの毛先の振動方向とが磨いているうちに、ずれてしまうことが多く、もっと悪い場合は、初めから一致しないことも多いからです。特に奥歯を磨く際に顕著なのですが、歯ブラシを手前に引きすぎて、最奥の歯にまで当たらないためだと思います。練習としては、鏡を見ながらのブラッシングを勧めるのですが、手鏡を持っても目を閉じてしまう患者さんも多く、年配者の歯磨きの習慣を変えることは、最も困難なうちの一つです。

いがらしデンタルクリニック | 新橋 歯科
院長 五十嵐淳雄