院長コラム vol.9 ●お口の中はブラックボックス5

2023.04.03

 前回は義歯の話だったが今回はクラウンブリッジの話をしたい。クラウンブリッジとは所謂被せ物のこと。歯牙が虫歯で崩壊が激しく軟化象牙質(柔らかくなった細菌層)の除去後原形を留めないものを全体に被覆する必要のある場合や、それ以上の崩壊のため抜髄(神経を抜くこと)したり、既に抜髄の処置が施されている歯牙を全体的に被覆する場合。または歯牙の欠損があって両隣の歯を削って繋げ、架橋(ブリッジ)する場合の適応症例をいう。

 最初の症例はまだ歯牙が生きているので、まず沁みない為にセメントで欠損部位を被覆し全体の凹凸を整える。そして被せ物の大きさが隣の歯と調和の取れる大きさになるように歯牙を削るのである。ポイントは歯牙と歯肉のマージン(境目)にセメントが露出しないように気をつけること。何故ならセメントは口腔内で溶けてしまうから。

 次に神経を抜いた歯牙の場合、治療の自由度は大きい。まず欠損箇所にコアをたてる。ここで前回の鮨屋の大将に登場願うことにする。残った三本の歯は全て神経を抜いた歯であった。現在その箇所も治療中であるが、初めに被せ物を外してやっぱりねと思った。レントゲンから分かってはいたが、根管治療のいい加減さもさることながら、中のコア(芯のこと、ポストともいう)は保険対応のスクリュウピン入りセメントであった。勿論大将の歯は保険外のセラミックである。その中の一本の歯は根の部分しかなくマージンから唾液等の液体の浸蝕でセメントも溶け、歯牙もう蝕(虫歯になっていること)していた。高いチャージを取りながら手間と材料費を省いた誠意の無い治療であった。本来なら歯牙の欠損部位にコア形成(外れ難い形に削ること)を行いその型を採って、コアを作らせる。その際に保険の場合は銀の含有率の高い金属(所謂シルバーと呼ばれている)を、自費の場合はパラジウムの含有率が12%以上の金属を使う。勿論前歯の噛み込みが強い場合シルバーでは折れる可能性が有るときにパラジウムを使っていけない訳ではない。但し歯医者は細かい保険点数に縛られその中で利益を上げようとするから、奇特な歯医者は少ない。それ以外にファイバーコアがある。これは弾性のあるプラスティック素材で歯根が細く金属のコアでは破折の可能性がある場合、有効な材料である。但し新しい材料なので技工所に、値段と出来不出来のばらつきがあり厄介ではある。大将のコアはファイバーしようと思っている。

 コアを入れて形成し、次は被せ物を何にするかである。保険では臼歯は銀歯(まともだと12%パラを使う)、前歯は硬質レジン前装冠(金属の表側をプラスティックで覆ったもの)である。保険外では奥歯で噛むことを重視した場合、金属のクラウン(被せ物)が良い。材質はゴールドかプラチナゴールドで値段は5万円位から。金属代を含む技工料は一万円強から。歯の色に合わせたいならセラミック(所謂メタルボンド)がお薦め、値段は7万円位から。技工料は使う金属にも差があるが一万二、三千円からである。どちらも上限は常識の範囲で二倍。三、四倍取る所もあるから気を付けて下さいね。


いがらしデンタルクリニック | 新橋 歯科
院長 五十嵐淳雄