院長コラム vol.10 ●義歯とブリッジとインプラント1

2023.04.15

 私のクリニックでは月に一床以上のペースで金属床義歯(自費)が出る。理由は定かではないが、通ってくれる患者さんの年齢層が高いのと、懐具合がそれ程悪くはないのと、今までのこちらに対する評価であろうか。勿論保険の義歯も作ってはいるが、数は金属床より少ないので工程はほとんど自費と変わらない。何故なら適合の良い義歯を作るには、残存歯を義歯の入り易い形態に直して、咬合平面を設定し、その上で精密な印象を採る必要があるから。この印象採得が要であるため、簡単な小さな義歯以外は、自費と同様にしているのである。また予め残存歯が抜ける可能性のある場合、増歯を想定に入れた設計を施すことも多い。手直しの自由度は大きく、調整可能な治療ではある。しかし金属のフックが見栄えを悪くし、異物感も払拭は出来ない。

 少数歯欠損の場合、取り外しのきく義歯より固定したブリッジやインプラントを選ぶ患者さんが多い。ブリッジとは欠損している両隣在歯を支台として橋を架けて繋げる修復物のことである。形態も金属の物からセラミックまであり一旦セットしてしまえば、ほとんど違和感無く使える。またセラミックのブリッジの場合は色調、形態共、口腔内に合わせられるので、選択の最優先順位にある。また咬合がきつい大臼歯部はメタルでその前の部分はセラミックでとコンビネーションの形態も可能である。難点といえば欠損部位を残存歯で負担しているため、破折したり動揺したりして傷みやすくはなる。また咬合力も以前の歯のあった状態よりは弱くはなっている。そして欠損部位の掃除が多少面倒ではある。歯ブラシだけでは掃除しきれないので、歯間ブラシやブリッジ用の糸楊枝(デンタルフロス)を薦めてはいるが、それを使って掃除する患者さんは少数派である。またそのため支台になっている歯が歯槽膿漏になる場合もある。その点に於いては義歯だと欠損部位の掃除はしやすい。ただ食べ滓は義歯のほうが付きやすいようである。

 それに替わる治療選択としてインプラントがある。以前に比べて特別な治療ではなくなってきている。謳い文句としては残存歯を削ったり、フックをかけてしてほかの歯まで悪くさせることも無く歯列が揃ってしっかり噛むことが出来る、である。確かによく噛めるが、インプラント体が歯槽骨に直接植えてある分、その対合の歯に必要以上の力が加わり傷めてしまうこともあるようだ。勿論、咬合調整をきちんと行えば問題はないのだが、義歯やブリッジほどのあそびは無い。ただ前者の難点は克服されており、金銭的にクリア出来る患者さんは選択しつつある。歯科医の側から見ても収益の大きな治療になり、患者さんに第一選択として勧める場合も多いが、その歯が欠損した理由に基づいた治療でなければならないし、インプラントが適応症例では無い場合もある。術者側も患者側も選択の幅を広く持ちたいものである。次回からはさらに細かく見て生きたいと思う。


いがらしデンタルクリニック | 新橋 歯科
院長 五十嵐淳雄