院長コラム vol.12 ●義歯とブリッジとインプラント3

2023.04.30

 前回は一歯欠損の場合の選択肢について述べたが、多数歯欠損の場合はどうであろうか。前にも書いたが、奥の大臼歯二本が失われた場合ブリッジの適用外となる。手前の歯では支えられないからである。義歯では小臼歯二本にクラスプ(フックのこと)を掛けて小さめの義歯を作りたいところだが、持ちが悪い。クラスプを掛けた二本に負担がかかり動揺し始めることが多いのである。そのため反対側までバーを延ばしてクラスプを掛けるのである。勿論そのバーは異物感があり、初めて義歯を使用する患者さんにとってのハードルとなる。また見栄えも悪く、食べ物の滓も付着しやすい。咬合圧もある程度歯肉にかかり違和感の原因となる。その点インプラントは前述のマイナス面を払拭する。この場合なら二本インプラントを植えることにより咬合も審美観も回復する。最奥に一本植えて五番目の小臼歯も使ってブリッジもありえそうではあるが、予後が悪いとされている。ただコンセンサスが得られているわけではなさそうである。

 インプラントに掛かる費用にはバラツキがあるが一本あたり大体35万円から45万円になる。前述の場合は70万円から90万円となり、経済的に可能な患者は限られるとは思うが、インプラントを希望する人は確実に増えている。

 三本以上の多数歯欠損の場合、ブリッジで何歯も繋げることがある。この場合の長所としては、多少の動揺歯でも固定されるので負担が小さくなること、ブリッジを入れるため歯列を揃えなくてはならず、歯並びが綺麗になり、咬みやすくなることがあげられる。短所としては、ダミーの部分の掃除が難しいこと、歯並びが悪い場合、歯列を揃えるため神経を抜く状況になることも多い。どの歯か、ひとつが悪くなっても全体を外す必要が出てくる、などである。多数の歯が失われていたり、保存不可能な歯があったりした場合、その原因を考えると、過度の虫歯(根まで達している)か、歯根破折か、歯槽膿漏であろう。来院した患者さんに複数本の抜歯を告知する手も無いではないが、抜く本数は最少にして将来抜けることを予測してクラスプの位置を決め、いざ抜けた場合は増歯する、自由度の大きな治療では義歯に敵うものは無い。この点インプラントの治療は自由度が小さい。せいぜい、連続した欠損歯のある部位のインプラントの本数を少なくする位である。残存歯との連結が禁忌になっているからに他ならない。動揺歯がある場合、それが抜けることを前提にインプラントを打つことは出来ない。抜けた場合、そこの箇所にインプラントを入れるのが自然であろう。一旦インプラントを入れると、欠損が増えるごとにその箇所もインプラントに置き換わらざるを得ないということになる。この点を考えると、資金がどれだけ続くかが要諦となり、限られた層にしか、その恩恵が浴さないとしたら、治療の有効性はどこにあるのか、歯科医としての立場を考えさせられる問題となろう。

いがらしデンタルクリニック | 新橋 歯科
院長 五十嵐淳雄