最前列で映写幕を 第一幕「わたしはロランス」(監督グザヴィエ・ドラン)7

2023.06.30

◆3つの降ってくるもの

 映画の冒頭で部屋で寝ているフレッドを起こすために、ロランスは洗濯物を彼女の顔に降らせる。彼女はその意外性に喜ぶのだが、これはロランスの数少ない長所の一つなのだ。彼と別れた後もフレッドはそのことを憶えていて、自分の息子に同じことをする。いや、それを儀式にさえしているのである。洗った洗濯物を顔に降らせてもらった経験は無いとしても、洗濯物に顔を埋めた経験はないだろうか。そのときやってはいけない気持ちとその反面、気持ち良さの反復を覚えたのではないだろうか。これはドランが若いため、まだその感覚を覚えていたためだろう。恐らくこの場面は、意外性の範疇が日常生活を出ないと云っているかのようでもあり、これらの洗濯物はみな色彩に乏しかった。

 しかし後半でロランスがフレッドを迎えに行き、外に連れ出しイル・オ・ノワールに行くことを同意させたときにも衣服が空から降ってくる。但しカラフルな衣服で下着ではない。この有名なシーンは意外性が日常生活の範疇を飛び越えたことを暗示していると思われるのである。

いがらしデンタルクリニック | 新橋 歯科
院長 五十嵐淳雄