最前列で映写幕を 第一幕「わたしはロランス」(監督グザヴィエ・ドラン)5

2023.04.26

◆キレるフレッドとパーティ

 その後ふたりがカフェでランチを摂っているときウェイトレスのおばちゃんの心無い科白にフレッドがキレて捲し立てる場面は圧巻である。そのときロランスは不快な面持ちの客たちを尻目に、口の端に笑みを浮かべている。それはフレッドの気持ちを理解しない鈍感さでもある。その上間抜けたことに、店を出たフレッドを追いかけ、「お礼を言わせて」と見当違いなことを言い、ハンドバッグで殴られる始末である。フレッドのカフェでの罵詈雑言は総てが本心という訳ではないのだ。いちばん腹立たしかったのは、その様な立場に追い込まれた自分自身に対してなのだ。勿論ロランスはその点を理解していないのである。その後フレッドはシャワーを浴びながら考え事をしていた。友人のパーティに出る算段をしていたのだ。

 フレッドがパーティに出る場面も巧みである。まずあの大胆なドレスがグザヴィエ・ドランのデザインであるということに驚く。そして空中を飛行するかのようなフレッドの歩みも含めて、彼女の開き直った態度が鮮やかである。つまりそのパーティをきっかけにして自分を変えたかったのであろう。そして金持ちの男から見染められるのである。

面白いのは客に混じってグザヴィエ・ドランが出ていることだ。また右目だけ道化師様の化粧が施されている。これは恐らくトリックスターの意味を込めているのではないだろうか。トリックスターとは物語の中で自然界の秩序を破り、引っ掻き回す悪戯者のことであり、善悪、破壊と生産、賢者と愚者の様な異なる二面性を持っているのが特徴である。まさにこの映画の中でグザヴィエ・ドランはトリックスターなのだ。

いがらしデンタルクリニック | 新橋 歯科
院長 五十嵐淳雄