2023.04.01
◆窮地に立たされたロランスが求めたものは
その後女装したロランスがカフェで何か書き物をしていると、一人の男が寄ってくる。何でそんな恰好なのか尋ねながら、肩に手を置かれた瞬間、ロランスは頭突きを喰らわすのであるが、逆に相手から手ひどい仕返しを受けてしまう。その手ひどい暴力的なスローなシーンに挿入するのがヒエロニムス・ボッシュの最晩年の作品「十字架を担うキリスト」の中のキリストを嘲笑、愚弄するユダヤ人の顔、顔である。これも自分たちと異なる者を嫌悪する者たちというアナロジーになるのだろう。
彼は顔中血だらけにして、電話を掛けるため小銭を借りようとするが、誰も貸してはくれない。若い男が見かねて、うちに来て電話を掛けるよう勧める。そしてロランスが掛けた先はフレッドではなく、母親だったのである。ここにグザヴィエ・ドラン独特の恋愛観があるのではないか。しかし母親は父親に気兼ねして電話を切ってしまう。ロランスが最も精神的に追い詰められたとき、駆け込む場所は恋人ではなく、母親であったのだ。
いがらしデンタルクリニック | 新橋 歯科
院長 五十嵐淳雄