最前列で映写幕を 第二幕「たかが世界の終わり」(監督グザヴィエ・ドラン)6

2023.12.11

◆役者に求める者

 この映画は戯曲の映画化である。登場人物はたった五人であるが、仏蘭西の最も著名な俳優を集めた。しかもドランは彼らに従来の演技ではなく、今迄にない役柄を要求したのである。アントワーヌ役のヴァンサン・カッセルは「ブラックスワン」「美女と野獣」等で主役を演じているが、ここでは弟ルイに社会的に水を開けられた、ブルーカラーの中年男を演じており、その屈辱的な演技には迫力がある。シュザンヌ役のレア・セドゥは「007スペクター」でインテリの医者のボンドガールを演じているが、ここでは両肩に派手なタトゥを施した、自立できない女性を演じており、少し頭が悪そうな演技が面白い。そしてカトリーヌ役のマリオン・コティヤールの演技が一番目を引くのである。彼女は「インセプション」「ダークナイトライジング」「マリアンヌ」等の主演女優であるが、美人で聡明な役が多い。しかしここでは口やかましい男の妻で少し下がって、お愛想笑いをする曖昧さを持った女性を演じている。恐らく少し太り、風采の上がらない感じも出していると思われる。初めてコティヤールを観た観客は彼女が喧伝されているほどの美人だとは思わないであろう。それほど演技が巧妙なのである。母親役のナタリー・バイは「わたしはロランス」でも母親役で意外性のない手堅い演技をしていた。最後にルイ役のギャスパー・ウリエルは「ロングエンゲージメント」「ハンニバル・ライジング」の主演であり、一番知名度は低いがそれが却ってリアリティを生み出している。初回で観た場合、彼はさほど気の強くない真面目そうな青年に見える。しかし何回か観るうちに、彼の悪意、言い換えれば無関心さが理解され、誰が最も本心を明かさないかが明らかになるのである。その曖昧な演技が光っていた。

第二幕「たかが世界の終わり」【La Fin】

いがらしデンタルクリニック | 新橋 歯科
院長 五十嵐淳雄