いがらしデンタルクリニック

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最前列で映写幕エクラン

第一幕「わたしはロランス」監督グザヴィエ・ドラン


◆キレるフレッドとパーティ 

 その後ふたりがカフェでランチを摂っているときウェイトレスのおばちゃんの心無い科白にフレッドがキレて捲し立てる場面は圧巻である。そのときロランスは不快な面持ちの客たちを尻目に、口の端に笑みを浮かべている。それはフレッドの気持ちを理解しない鈍感さでもある。その上間抜けたことに、店を出たフレッドを追いかけ、「お礼を言わせて」と見当違いなことを言い、ハンドバッグで殴られる始末である。フレッドのカフェでの罵詈雑言は総てが本心という訳ではないのだ。いちばん腹立たしかったのは、その様な立場に追い込まれた自分自身に対してなのだ。勿論ロランスはその点を理解していないのである。その後フレッドはシャワーを浴びながら考え事をしていた。友人のパーティに出る算段をしていたのだ。

 フレッドがパーティに出る場面も巧みである。まずあの大胆なドレスがグザヴィエ・ドランのデザインであるということに驚く。そして空中を飛行するかのようなフレッドの歩みも含めて、彼女の開き直った態度が鮮やかである。つまりそのパーティをきっかけにして自分を変えたかったのであろう。そして金持ちの男から見染められるのである。 面白いのは客に混じってグザヴィエ・ドランが出ていることだ。また右目だけ道化師様の化粧が施されている。これは恐らくトリックスターの意味を込めているのではないだろうか。トリックスターとは物語の中で自然界の秩序を破り、引っ掻き回す悪戯者のことであり、善悪、破壊と生産、賢者と愚者の様な異なる二面性を持っているのが特徴である。まさにこの映画の中でグザヴィエ・ドランはトリックスターなのだ。

◆ふたりの別れ 

  場面が変わりふたりがカフェで差し向いになって話をしており、フレッドが恋人の出来たことを告白する。子供も穏やかな家庭も全部あげる、というロランスの言葉は虚しい。彼は恋人が出来たことよりセックスの回数を気にしている。しかしフレッドから空々しくは有っても、その恋人を愛していると聞かされ、喉を詰まらせるのだ。この後の表現も面白い。何とロランスは口から黒アゲハを出すのである。これは一体何を意味するのか。蝶は完全変態の昆虫であり、幼虫、サナギ、成虫(蝶)と変化を遂げる。つまり君も変わっってしまったねと言っているのだ。そしてウィンクをして、画面は「会計をお願いします」と何度も繰り返す。ここでベートーヴェン交響曲第5番第1楽章が流れていることに気づかされる。勿論この会計は二人の関係の精算に他ならない。 そしてカフェの扉が閉まり、次の場面で両親の家の扉が開くのである。「運命はかくの如く扉を叩く」と言わんばかりに。
 扉の前でびしょ濡れに泣きじゃくるロランスを見て、母親は即座に息子の危機を理解する。テレビ漬けの父親の観ている喧しいテレビを持ち上げ投げ捨て、(亭主から息子への愛情の回帰)二人で美術館に向かうのである。雪が頻りに降っている場面を次第に遠景にピントを合わせると二人が向かい合って傘を差していると思しき像が浮かぶ。一方フレッドはシャワーを浴びていてこちらを向き、何かを決めた様子を見せる。この対比も面白い。降ってくるものの冷たさと温かさ、それぞれの心はその逆なのである。

次項「◆3つの降ってくるもの」へつづく→ →

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